▽エピソードその四▽

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▽エピソードその四▽

ボクの日常はというと、特に何も変化はなく、ただ平準とした毎日を過ごしていた。 営業成績も特に抜群という訳でもなく、どうしようもないという訳でもなく。 まだ二十代のサラリーマンの給料なんてたかだかしれている。それでも独り者であるがゆえに、給料の全額が自由に使える。 とはいえ、将来設計のためにも無駄な出費は抑えなければならない。何よりも現在の生活だってゆとりがあるわけじゃない。 ボクにとってタイムリーだったのが、十二月はボーナスの時期であったことだ。同期なりの成績を残せたボクのボーナスは、一応規定どおりの額が算出された。クルマのローンには決まった額の確保が必要だが、それ以外に使うアテは無い。多少は『ピンクシャドウ』に使える資金ができるというものだ。 最も手強い敵は現在のタイミングだと、飲み会のお誘いであろう。やれ忘年会だの新年会だのといった時期でもあり、あまり多くない友人からのお誘いが数多あるに違いない。 そういった誘惑を多く断ち切り、やり過ごす覚悟が必要だ。そんなとき、タイミング良くケータイが鳴る。早速おいでなすったなと思った。 「もしもしオレだよ。」 声の主は間違いなくヒデだった。 「ボーナス出ただろ?今度の金曜日、とりあえず少々の軍資金を持って『ロッキー』に集合。七時半でどうだ?」 ほらほら、思ったとおりだ。 「今度の金曜日はウチの会社の忘年会なんだ。その日は無理だよ。」 「じゃあその翌日の土曜日は?」 「おいおい、連荘はキツイよ。」 「じゃあその次の週は?」 「その次の金曜日は得意先の忘年会に呼ばれてるし、土曜日はクリスマスじゃん。」 「いいだろ?どうせ一緒にすごす相手がいるわけじゃなし。」 「どこも一杯だろっていう意味さ。『ロッキー』だって去年は客が一杯でゆっくりできなかったじゃないか。」 「なんだなんだ、急に愛想が悪くなったな。さては女でもできたか?いやいや今のアキラにそんな出来事があるわけがない。一体どうしたって言うんだよ。」 親友の誘いを断るのに少々痛む胸ではあるが、どうせ新年は早々に地元での宴があるに決まっているのだから、年末ぐらいは回避しておきたい。 「静岡に帰ったら、ゆっくり付き合ってやるから、年内一杯の週末は休肝日にさせておくれよ。」
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