▽エピソードその四▽

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「ちっ、いい若いモンが肝臓なんか休めなくったっていいのによ。わかったわかった。その代わり駿河での新年会は逃がさないからな。」 「駿河でも浜松でも伊豆でもどこでも付き合ってやるよ。だけど、ドライバーはヒデの役目だぜ。遠出をしたがるのはいつもお前さんだからな。」 「今年は駿河でいいよ。秋に帰った時に面白そうな店を見つけておいたから。」 「おい、またそっちの店じゃないだろうな。もういいって言っただろ。」 「普通のガールズバーだよ。まあ女の子はいるけどな。まあそれは行ってからのお楽しみって事で。じゃあ正月に向こうでな。」 これで年末までの最も手強い悪魔の誘いを回避できた。あとは、ミウとの逢瀬をどうするかである。 年内にあと数回は会いたい。二度になるか三度になるかはタイミング次第だ。特に金曜日の会社の忘年会はウソじゃない。この日は、多少遅くなっても行かねばなるまい。 できれば数少ない彼女の出勤日には行きたいと考えていたのだが、今はそのチャンスは週に二日しかないのである。どうせ会社の忘年会なんて二次会が終わる頃には、みんなバラバラになるのである。さらに翌日は休みなのだから、電車がなくなる時間になったところで、ネットカフェあたりで夜を明かせば済むことだ。 そう、ボクはすでに彼女と会うことしか頭に無いのである。 師走の飲み会シーズンに入ると、ボクらの仕事はかなりハードになってくる。販売量は先月の十数倍にも膨れ上がる。いわゆる「稼ぎ時」といわれるシーズンの一つである。残業なんて当たり前、土日の対応だって若い者が優先的に当番を回される。 用事さえなければ、休日出勤手当てが目当ての若輩者が率先して手を上げる。ボクも今はそのグループに入っている。 しかし、忘年会の翌日だけは回避したかった。さりとて思うことは誰しも同じである。 そして、くじ引きの結果、残念ながらボクはその日の当番に当たってしまったのである。その代わりと言ってはなんだが、二次会への参加免除だけはもぎとった。つまりは、一次会が終わった時点でボクはフリーとなり、彼女に会いに行けるということである。 とりあえず週末の段取りが決定し、後は日常の時間をこなしていくだけなのだが、その忙しさったら、とても尋常ではなかった。営業の合間に彼女へのお土産を探す時間もあまりなく、気持ち的には少々焦っていた。
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