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まさにその通り。ボクもこういう店の事情をよく知っている訳ではないが、確かにこういう店で働いている女の子っぽくない感じがする。ボクも彼女のそういう雰囲気がたまらなく好きだ。
しばらくして、今宵の一番手でヘルプに来てくれたのはミカさんだった。
「あら、また来てたのね。よっぽどミウちゃんにご執心なのね。」
「はい。そのとおりです。完全に恋してしまいましたから。」
「そうねえ。ホントに可愛いものねえ、彼女。わかる気がする。半年後にはきっとかなりの人気嬢になるわよ。でもね、みんな人気が出てくる前に辞めちゃうのよね。」
「彼女は学生ですから、きっと学校を卒業するタイミングで辞めると思いますよ。そのときがボクの失恋記念日になるんですけどね。」
「上手いこと言うわね。まあでもココのお客さんは、大抵みんな最後は失恋するんだから、可哀想といえば可哀想ね。」
「ミカさんはそういう人たちをどうやって慰めるんですか?」
「そんなの無理よ。どんな言葉を言ったって慰めになんかならないわ。だからあなたも覚悟しておきなさい。」
胸にズンとくる言葉だった。恋の奴隷にとっては死の宣告をされたに等しい。
「ミカさんにはお客さんつかないんですか?そんなに綺麗な人なのに。」
「私はね、ヘルプ専門なの。あんた達みたいな可哀想な男の人たちを見て回るのが趣味なのよ。」
「意地悪な趣味ですね。でも今まで多くの失恋を見てきたんですね。」
「そうでもないわよ。だって女の子が辞めちゃうと、お客さんはもう来なくなるもの。だから悲壮な顔なんか殆ど見たことがないわ。あなたもミウちゃんがいなくなったら、もう来ないでしょ?」
それもそうだと思った。きっとボクも彼女が店を辞めたら、もう来なくなるんだろうなと。
少しブルーになった気持ちを立て直そうと、ミカさんに話しかけようとしたとき、場内アナウンスが聞こえた。
=ミウさん、十一番テーブルへバック=
十一番テーブルというのは、今ボクが座っているシートである。そう、彼女が戻ってくるというアナウンスだったのだ。
「さあ、またミウちゃん戻ってくるから、彼女が辞めるまでは精々甘えておきなさいね。」
まるで先ほどのボクたちの会話を聞いていたかのようなセリフだった。後で聞いたところによると、ボクはミカさんからも“甘えんぼさん”に映っていたらしい。
「ただいまあ。」
ミウの第一声はいつもこんな感じだ。
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