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「ボクはね、明日も仕事があるんだ。だから今日は帰るよ。またクリスマスのイベントには来るから。プレゼントは何がいい?」
「プレゼントなんていらないわ。アッくんが来てくれるだけでいい。そして私を癒して。」
「うん。きっと来るから。」
そして慌ただしかった金曜日の夜、ボクと彼女との逢瀬の時間が幕を閉じる。
ボクはいつものようにドアまで見送られて、夜の静寂へと飛び出すのである。
「今夜はやけに冷えるな。」
さっきまで十分に暖めてもらっていた体は、師走の底冷えを敏感に感じ取っていた。
同時に心の中を通り過ぎる風も微妙に感じていたのである。
今宵の月も冷たい表情でボクを見下ろしている。何を伝えたいのだろう。
翌日の朝、ボクは出勤するため、朝早くから起きていた。
何気にケータイを見てみると、ミウからメールが入っていた。着信時間は午前二時十五分。店が終わって、家まで送ってもらうクルマの中で送信してくれたのだろう。
―アッくん、おやすみ。―
書かれていた内容はわずかに一行だったが、ボクにとっては何よりもうれしいメールだった。つまり、彼女のメールアドレスを手に入れられたということ。なんだか、わずかながらも彼女とつながった気分になれたからである。
さて、そこからがボクのドキドキタイムの始まりとなるのだ。
最初のメールはどんな風に送ろうか。すぐに返信してもいいのだろうか。気の利いた言葉が必要だろうか。返事を求めるような内容じゃない方がいいよな。
アパートから会社までの間はわずかに三十分程度。その間にああでもないこうでもないと言いながらメールの文章を考えていたのである。
で、結局送った文書は、
―メールをありがとう。とってもうれしかった。頑張ってね、ボクも頑張る。―
精一杯考えてこの内容。我ながら文章力と表現力の無さに落胆する。しかし、今のボクにはこれが限界。また、会いに行けばいいさ。そう割り切って職場へと向かったのである。
ミウから次のメールが来たのは、ボクが最初にメールを送った三日後だった。
「今度の金曜日は急用ができて、お店は休みます。日曜日には出勤するので、会いに来てくれたらうれしいな。」
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