▽エピソードその六▽

2/11
前へ
/130ページ
次へ
「じゃあミサちゃん。学校が近くなの?」 「ちがうの。今日はね、お母さんの誕生日なの。だからプレゼントを買いに来たの。これからみんなでお祝いしに行くの。」 「それで今日はお休みになったんだね?」 「そう。ちょっと遅く帰る夜もあるから、ご機嫌取りをしておかなきゃね。」 「それって親孝行なのかな?」 「心配かけないって言う意味でね。」 「ゆっくりできるの?一緒にお茶する?」 「えーと。この後、弟と待ち合わせだから、デートは今度でいい?」 「いいの、そんなこと言って。期待しちゃうよ。」 きっと、上手く断る言葉が見つからなかったのだろう。ニッコリ微笑んで、ペロッと舌をだした。 「うふふ。」 そして、耳打ちする様にそっとささやく。 「日曜日は来てくれるの?」 「もちろん、行くに決まってるさ。また指名してもいいかな。」 「待ってるわ。」 それだけ言ってミウは自分のコーヒーを注文カウンターへチョイスに行く。 「奢ってあげるよ」っていうのに、「大丈夫」といってボクに手を振る。 ボクにも次の仕事が待っているので、あまり長くのんびりはしていられない。 「じゃあね。」 それだけ言い残して、ボクも手を振って店を出た。 ミウがボクの耳元でささやいた「来てくれるの?」に対して、「デートしてくれるならね。」と言いかけたけど止めた。そんなことを訪問することの条件にしたくなかったし、「じゃあ来なくてもいいわ。」なんて言われるかもしれないと思うと、恐くて言えなかったし。 ホントは仕事をサボってでも一緒にお茶をしたかったけど、待ち合わせがあるって言われるとね。弟クンが来たらボクのことを説明するのは難しいだろうし・・・。 でも奇跡的に彼女と出会えた今日の瞬間。神様がいるなら感謝したい。 少し物足りない気もしたが、贅沢を言わずに満足しておこう。 出会えたこと自体が奇跡なんだから。 それからのボクは、ますます馬力に拍車がかかり、夜遅くまで残業に勤しんだ。 いろんなことに充実感を味わいながら。 さて、次の日曜日が楽しみだ。 翌日の土曜日は完全休養日となった。 忘年会の翌日に出勤したお陰で、この日は優先的に休養日をもらえた。 昨日はテンションだけが妙に高くて、ビジネスハイみたいな状態。その疲れが翌日に重くのしかかっている。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加