▽エピソードその六▽

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朝は基本的に食べるタイプなのだが、今朝はいささか食欲が減退している。そんな時は軽く近所の公園を散歩に出かけたりするのだ。 もちろん冬なので襟巻きなしでは凍えてしまう。手袋だって必須アイテムだ。 気温は低いが天気はいい。木洩れ日がキラキラと眩しい小道をなるべく早足で歩く。 ときおり聞こえる小鳥の声が、少しずつ疲れを癒してくれる。 すれ違うジョガーたちは白い息を切らして走っている。ボクも運動不足にならないうちに、何か体を動かさねば、体がドンドン鈍っていくに違いない。 これでもボクは学生時代、バドミントンをやっていたおかげで、今でも体力的にはまあまあの自信を持っている。 二キロ程も歩いただろうか、体が少し温かくなってきたので、そろそろアパートに戻ろうとした時、メールの着信音が鳴った。 ―アッくん、おはよー。昨日は突然のことでビックリしちゃった。デートできなくてゴメンネ。― たったそれだけの文書だったが、初めて来た彼女発信のメール。いつもはボクのメールに返事をくれていただけなのに。そう思えばこれ以上素敵なメールはないと思った。ボクはすぐさま返信する。 ―おはよう。昨日は突然だったからね。別に気にしてないよ。デートしたかったのは事実だけどね。― そしてケータイは再び微動だにしない静かなオブジェとして鎮まっていた。 そんなにすぐには返事が戻ってこないことはわかっていた。だから、送ったことだけで満足してアパートへと戻るのである。 その頃にはボクの気分も体調も、普段の自分を取り戻していた。 結果的に、彼女からのメールがボクの日常を取り戻してくれたのかもしれない。 一日の安静日をもらったボクは、日曜日の朝にはいつも以上の快調さをもって飛び起きた。 今日は思いついたかのようにジョギングをするつもりだった。昨日すれ違ったジョガーの影響もあったに違いない。 アパートから二つとなりの駅まで、往復すると約五キロ。初日の距離としては十分だろう。マラソン大会に出るわけじゃなし。 ジョギングが終わると、ササッと汗を流して朝餉の支度。とはいえ、独身男のモーニングなんて質素簡単極まりない。冷凍食品のおにぎりを二つほどレンジでチンして出来上がり。あとはインスタントの味噌汁で準備完了。 次にボクはパソコンの電源を入れて、今日の情報を入手する。
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