▽エピソード・ゼロ▽

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「一緒に行きませんか?まだ混雑するには時間も早いでしょ?ちょっとだけユウさんにお店を任せて・・・。」 ユウさんとは店の従業員で、名前はユウスケというらしい。スナックでいう“チーママ”的な存在である。 「そうだな。一緒に行った方が話が早い。ユウスケ、一時間ほど空けるけど任せるぞ。」 「はいはい、またリボンさんのとこですか?今日は早いですね。」 どうやら本格的に常連客となっている店らしい。ユウさんもあきらめがちな返事だ。 「よし、そうと決まれば善は急げだ。」 もうボクが断れる隙間がなくなっていた。仕方なく彼らの後をついていくことになったのである。 『ロッキー』から歩くこと約五分。その店はあった。 白と黒の看板がやけに明るい店だった。 テンションが上がらぬままついて来たボクは、結局店の名前さえ確認することもなく入店することとなる。 こんな店に来るのは初めてだ。少しドキドキする。 もちろん入店時の交渉をするのはケンさんである。 「オレにはリボンちゃん。こいつらは初めてだから三回転からよろしく。」 三回転とはフリー入場と言って、女の子を指名をせずに、1セットの間に女の子が三人入れ替わりで客の相手をするシステムである。 「途中で気に入った女の子がいたら、その子を指名すればいいからね。」 とは言われてみたものの、何のことを言ってるのかわからない。 少し待合室で待たされた後に、ようやく薄暗い店内に案内された。 そこはデッキシートのような二人がけのチェアーで、目の前に小さなテーブルが用意されている。 ドリンクは注文すれば持ってきてくれるらしいが、緊張しているボクは何を注文したかもわからなかった。 やがて一人の女の子が現れる。 「こんばんわ、ヨウコです。」 そう言いながらスッとボクの隣に座る。 薄暗い照明ながらも、彼女が美人だということが一目でわかる。 少しドキドキした鼓動を感じながら、どうしていいかわからぬボクが黙ったまま座っていると彼女は、 「どうしたの?」と聞いてくる。 「どうしていいかわからないんですが。」と答えると、 「うふふ。こういうお店初めてなの?」と聞いてくる。 「そうです。ここは何のお店ですか?」と尋ねると、 「そんなことも知らずに来たの?」って驚いている。 そうなのだ、何も聞かされずに店に来たボクは、ただただ呆然と座っているしかなかったのである。
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