▽エピソードその六▽

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「そういえば、彼女の趣味ってなんだったっけ。確か海外旅行って書いてあったかな。」 お店のホームページの女の子紹介の中で記載されていたことを思い出した。しかしボクには海外旅行の経験はなく、共有できる話題は乏しいようだ。 しかし、そんなことで滅入ってはいけない。二人の話題はこれから作っていけばいいのだ。そして、さっき買ったアイテムが新しい話題のきっかけになればいい。 そう思った。 時計を見るとまだ三時を少し回ったあたり。さすがに十二月だけにそろそろ太陽はビルの彼方に傾きかけているが、夜の戸張が下りるまではもう少し時間がかかりそうだ。 そのとき、メールの着信音が鳴った。ミサからだった。 ―今日は来てくれるの?― どうせなら「会いにきてくれるの?」って言って欲しかった。そんなことを思いながら、 ―もう近くまで来てるよ。― って返事する。するとすぐさま、 ―私もよ。― と返ってきた。 もう会いたい気持ちが抑えられなくなったボクは、すかさず返信する。 ―今、バスターミナルの向いのビルだけど、よかったらお茶しない?― ―いいよ。用事は終わったし。JR出たとこだから、そっちに行くね。― ―『モンテカルロ』の前で待ってる。― 『モンテカルロ』っていうのは、衣料チェーンのお店。新宿南店だったら若い子なら誰でも知っている店である。 ボクのいるところからはすぐだったので、早く着いたボクはドキドキしながら彼女を待つことになる。 一分、二分、三分・・・時が進むのがこれ程じれったく感じたことがあっただろうか。 胸の高まりが最高潮に達しようかという時、通りの向こうからミサが現れる姿が見えた。 彼女もボクの姿が見えたのか、手を振って駆け足で向かってくる。同時にボクも彼女に向かって一直線に駆け出していた。 軽く息を切らしたまま向かい合うボクたち・・・。 「やあ、迷わなかった?」 「うん、私、東京育ちよ。」 「これはお見それいたしました。」 一瞬、息を呑んで彼女を見つめる。 「そんなに見られたら恥ずかしい。」 「いつもどおり可愛いからね。お茶でいい?」 「うん。」 ボクたちは近くにある喫茶店に入り、頃合の良さそうな二人がけのテーブルを見つけて座った。 「何を注文する?」 「カフェオレがいいな。」
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