▽エピソードその六▽

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クリスマスプレゼントなのだから、今日ならいつのタイミングでも良かったのだが、お店は今日からクリスマスイベントなのである。きっと何かあるに違いない。そう踏んでいたので、プレゼントのタイミングはその時だと思っていた。 すると、彼女は自分のバッグから何やら袋を取り出してボクに渡す。 「ホントはね。お店で渡そうかと思ったんだけど、やっぱり今にする。クリスマスプレゼント。アッくんのだけは他のお客さんのと違うの。だから。」 「えっ?ホントにありがとう。実はボクもあるんだプレゼント。」 ボクも鞄から小さな袋を取り出した。 「すごい。ありがとう。開けてもいい?」 「もちろん。でも高いものじゃないんだ。でも使ってくれるとうれしいな。学校のお友達に見せても大丈夫なものだから。」 ボクからのプレゼントは、食品サンプルのピルケースだった。市販されているミント系のピルケースにピッタリはまる赤飯のサンプルだ。ボクにもお揃いのピルケースを買ったが、ボクのは日の丸弁当だった。 「面白い。使うわ。これなら学校のお友達にも自慢できそう。」 「でも、誰からもらったって言うの?」 「そんなの言わないかも。」 「彼氏にもらったって言っておけば。」 自分で言ってから思ったのだが、かなり大それたことを言ったと思った。 さすがに照れてしまうので、今度は彼女からのプレゼントの袋を開けてみた。 そこには真っ赤な手袋が入っていた。 「えへ。これも高いもんじゃないの。でもね、私とお揃い。」 そう言ってバッグから同じ柄の手袋を出して見せた。 「確かに、これじゃお店では見せられないかもね。ありがとう。大事に使うよ。ボクのプレゼントもね、実は同じ柄じゃないけどお揃いなんだ。」 ボクも自分用に買ったピルケースを見せた。 「うふふ。なんだか恋人同士みたいね。」 「ダメかな。恋人同士になったら。」 その瞬間、周りの音が一瞬消えた。スッと静まり返る雰囲気の中、ボクの声だけが通ったような気がして恥ずかしかった。 彼女は「ふふ。」って微笑み、「冗談よね。」と言ってはにかんだ笑顔を返してくれる。 「ゴメン、聞かなかったことにしてくれる?」 「ううん、聞いたわ。でも、返事はもうちょっと待っててね。」 彼女の言う意味がよくわからなかった。何か別の理由があるのかな。わからなかったけど、追求はしなかった。
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