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▽エピソードその七▽
聖しあの夜、何かを見つけたような気持ちだった。
今はそれをそっと胸に抱いておこうと思っていた。
あの日以降、アパートから会社へ行くまでの間、ボクの手は真っ赤に染まっていた。もちろん、おどろおどろしいわけじゃない。ミサからもらった真っ赤な手袋のお陰だ。派手な色なのでちょっと恥ずかしいような気もするが、慣れてくると気にならなくなる。この手袋をしているといつも彼女と手をつないでいる感覚になるから不思議なものだ。
さても、忙しいのは彼女だけじゃない。ボクの仕事も年末ギリギリまでは働きアリのような毎日だ。
「○○商店の伝票は出したか!」
「△△酒店への追加は伝達したか!」
「□□の件はどうなってる?」
次から次へと発注と伝票とクレームが飛び交っていた。
仕事納めの日、最後の配達を配送センターに送信すると、我々の業務は終了する。
ほっとする時間、それは十二月三十日の夜のニュースが流れる頃だった。
課長がみんなを集める。
「今年もご苦労様でした。我々の年末年始の休暇は他の業種から比べると短いかもしれないけど、みんなの頑張りはきっと来年のボーナスに反映されるだろう。じゃあ。」
そう言ってみんなの前に配られていた缶ビールが一斉に掲げられた。
「おつかれさん、かんぱーい!」
これがわが社の毎年恒例の年末終了行事らしい。ボクにとってはまだ二回目の行事だが、ようやく仕事から解放される安堵感が、みんなの笑顔に現れる。
ボクも一本だけは頂くが、二本目からは遠慮する。この後直ぐに帰宅して、実家に帰る準備をしなければならないのと、深夜に東京を出立し、日が昇る前には箱根峠を越えていたいからである。
ヒデも同行することが決まっている。
ボクはドライブが趣味なので小さいながらもクルマを持っているが、ヒデはというと免許は持っているがクルマがない。
仕事納めの日が一日早い彼には十分な休養期間があるので、運転を任せることで、二人して静岡に帰るという共通の目的が果たせるのである。
この日もすでにボクのクルマはヒデに預けてあった。キーは渡してあるので、前日に乗って行って構わないとしていたし、あとでヒデを迎えにいくのが億劫だったこともある。
さても仕事を終えたボクは、帰宅後すぐに帰省の準備を始めた。
すでにあらかたの用意は終わっていたので、最後の片付けさえしておけば、さほどの時間はかからない。
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