▽エピソードその七▽

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時計は深夜の一時を指していた。ボクはヒデに連絡を入れる。 「こっちは準備OKだよ。何時に来る?」 「もう向かってるよ。あと二十分ぐらいで着きそうだ。今日も高速道路はひどく混んでるってよ。どのルートで行く?」 「結局東名を下るのが一番早いだろ。ちょっとでもクルマが少ない時間帯を狙うために、こんな夜中に出かけるんじゃないか。」 「まあ、それもそうだな。途中で休憩しながら行くしかないよな。」 やがてヒデは予告どおり、電話から二十分後に到着し、後はボクの荷物であるボストンバッグを二つほど放り込んだら出発準備は完了する。 「マジで疲れてるから、神奈川に出るぐらいまでは寝かせてもらうよ。」 「ああ、去年と同じパターンだな。オレは昼過ぎまで寝てて、さらに昼寝までしたから休養十分さ。」 二人を乗せたクルマは、間違いなく渋滞しているであろう高速道路へと突っ込んでいく。同時に間もなく、クルマの振動とともにボクは深い眠りの中へと落ちていった。疲れた体と乾杯の一本がボクをあっという間に寝かせてくれたのである。 最初に休憩したのは駒門PAだった。 さすがに足柄のSAは未明の時間でも人がいっぱいで、あまり名の知れていないこちらの方がパークしやすかったようだ。 「おいアキラ、ションベにいかねえか。」 「ああ、ここはどこだ?」 「ちょうど神奈川を抜けたとこだよ。こっちの方が停めやすかったからな。腹はへらねえか?フードコートがあるぜ。」 「そうだな。」 ボクたちは深夜にもかかわらず、割りと混雑しているフードコートで二人がけのテーブルをやっと見つけると、どっかと陣取った。 「オレはラーメンでいいよ。ここで待ってるからヒデは好きなの食べれば?」 ボクは寝起き状態だから、さほどガッツリ食べたいわけじゃない。目が覚めればそれでいいので、そうヒデに伝えるとまだ眠い目をこすりながら、目の前のコップに入った水を喉へと流し込んだ。 時計を見ると午前三時三十分。飯田橋にあるボクのアパートから神奈川県の県境を越えるまで、ざっと二時間ほど経過しているという訳だ。 しばらくすると、呼び出しボタンを手に持ったヒデがやってきた。 「何を食べるんだい?」 「腹減ったからな、カツ丼とたぬきそばのセットだよ。後の運転は任せたからな。」 そろそろボクのアルコールも完全に抜けている。ドライバーの交代にはいいタイミングだった。
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