▽エピソードその七▽

6/16
前へ
/130ページ
次へ
「いいんだ。オレがそれで満足していれば。彼女とご飯が食べられただけでも満足だよ。」 「確かにそれはそうだよな。オレなんかカレンちゃん目当てにもう一年半も通ってるのに、いまだに同伴だって許してもらえてないしな。おれもそろそろオキニの乗り換え時期かな。そのミウちゃんていう子に。」 「おいおい、全部喋ったんだから、今更それはないだろう。」 「はははは、ウソだよ。それにしてもおまいさんはわかりやすいなあ。そんなのでよく食事に引っ張り出せたなあ。いや、もしかしてこういう単純なやつの方が行きやすいのかな。オレも今度はその手でいくかな。」 「今更やってきたことを無かったことにはできないんじゃない?」 「確かに。そのミウちゃんって子はカレンちゃんと仲良くないのかな。今度ダブルデートの提案してくれよ。全部オレの奢りでいいから。」 「無理だよ。オレだって二度目があるかどうかわからないんだから。」 「ん?さてはなんかあるな?」 「彼女は学生なのさ。今年で卒業だから、もうオレと遊んでる暇なんか無いのさ。オレも彼女の卒業の邪魔になるようなことはしたくないし。」 「ああ、その素直なところなんだな、きっと。女の子がそれを本気で捕らえるかどうかは個人差があるかもだが。」 「もうそろそろこの話はいいだろ。早く出発しないと、年内に着かなくなるぞ。」 かれこれ三十分は話し込んでしまっただろうか。夜が明ける前に静岡県内に入っておかないと、今度は後続の渋滞に追いつかれてしまう。それだけは避けなければならない。 ああ、内緒にしてたのに、ほとんど喋ってしまった。それはそれでかなり深い後悔をしている。ケンさんには喋らないように口止めしておかないと。 そんな約束を守れるヒデじゃなさそうだけど。 やがて夜が明けて、多くの人が次の行動に動き出す頃、ボクたちは無事に静岡に着いた。ヒデを実家まで送って、その足でボクは自分の実家へ向けてアクセルを踏んだ。 ときはすでに大晦日、多くの家で正月の準備に余念がなかった。すでにしめ縄や門松が玄関先に飾られている家が何軒もあった。 ウチではお袋がボクの帰りを待ちかねており、ボクが帰ると同時に「ご飯は食べたか」と聞いてくる。昔から世話好きのお袋のことだ。しかし今となってはそれが少々鬱陶しい。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加