▽エピソードその七▽

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「だけど、お前の職場は浜松町だろ。オレたちが行ってる店は新宿だぜ。真反対じゃねえか。通えないぞ。」 「ちょっと歩くけど、地下鉄なら一本でいけるさ。」 「じゃあ、本気でその気になったら連絡くれよ。一緒に行ってやるから。」 「で、お前さんたちのオキニの女の子の名前は?」 「オレのオキニがカレンでアキラのオキニがミウ?だっけ?」 「ああ。」 ボクは素っ気無く返事をした。心の中では、早くその話題が終わってくれないかと願って止まなかったのだが、ヒデとテルには共通の話題らしく、かなりの時間盛り上がったまま東へとクルマは走る。 「よし、オレも頑張るぞ。」 テルはきっと勘違いをしているに違いない。誰もキミの事なんか応援してないよってことを。 こうしてボクの年末年始の休みは終了を迎える。 懐かしい顔に出会えて少しはリフレッシュできたかな。そんな冬休みだった。 新年早々、仕事は忙しかった。 忘年会の後に待っているのは新年会である。まるで判を押したかのように多くの人々が宴会場へそぞろ連なっていく。そうなるとボクの会社は大忙しになるのである。 逆に言えば稼ぎ時ではあるので、この時期に閑散としているよりは格段にいい状況なのである。ボクたちをポジティブにさせるための要因でもある。 ミサにも早く会いたかった。お店の中のミウでもいい。早くあの可愛げな笑顔が見たかった。あのやわらかな肌の感触と心地よい芳香を取り戻したかった。 ホームページを見ると、『ピンクシャドウ』は正月の三日から営業していたようだ。 しかしながら彼女の出勤情報は掲載されていなかった。彼女もまた、限りある学生最後の冬休みを満喫していたのかもしれない。そして、それはそうあるべきだと思っていた。 かく言うボクも学生時代にもう少し色んなことを体験していればよかったなと今更後悔することもある。学生時代にしかできないことって山ほどあるんだなということを学生時代が終わってから気付くのである。大概の大人がそうであるように。 そうして新しい年が一週間ほど経過した頃、暦は成人の日を迎える。近年政府が操作した正月明け最初の土日月の三連休となる週末である。 そしてボクはホームページ上でミウの出勤情報をみつける。同時にミサからのメールが着信されていた。メールのタイトルは「あけおめ」で、本文は、
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