▽エピソードその七▽

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―日曜日に出勤することになりました。よかったら会いにきてください。― 普通に読めば、キャバ嬢の営業メール以外の何物でもない。しかし、本文の最後には、 「ミサより」 と書いてあるのを見て、そうではないと自分に言い聞かせる。 大義名分はともかく、その日にお店に行けば会えるのだから、絶対に行くぞと心に決めてスケジュールを立てていく。 大事なことは土曜日の留守番当番を買って出ることである。すると自動的に日曜日は非番となるからである。なんなら月曜日も出勤したって構わない。そうすることで日曜日が自由にコントロールできるなら。 結果的には、皆それぞれの思惑があるようで、ボクの当番は土曜日だけとなった。 さて、そうなると次はお土産の準備だ。もちろん、ちゃんと静岡で調達してある。 今日はまだ水曜日だというのに、もう朝から遠足気分だ。 そんな折、ヒデから電話が入る。 「土曜日に『ピンクシャドウ』へテルを連れて行くけど、アキラも一緒に行かないか?」 静岡からの帰りのクルマの中で、彼らが話していた予定が履行されるようだ。 「行かないよ。その日は仕事なんだ。何時になるかわからないから。二人だけで行ってくればいいじゃん。」 ミウの出勤日じゃないことは別に言わなくてもいい。かえって出勤日を知らせることになり兼ねないからである。 ヒデもカレンさんの出勤日は把握していても、他の女の子のスケジュールまではご存じないようだった。 これでひと安心である。なぜなら、彼らだって土曜日に行ってさらに日曜日まで行くなんてことは、おおよそ有り得ないからである。つまりは、ボクの行く日には彼らと鉢合わせすることがないということである。 土曜日の留守番は多忙を喫した。先輩の受発注が中途半端に終わっていたため、書類を確認するのに右往左往。何とか配送センターの最終便に間に合うことができたが、営業スタッフが二人ほど緊急配達で出払っていたため、かかっている電話に間に合わないものが何件かあった。それがボクの得意先でなかったことを祈るのみである。 土曜日は配送センターが十九時で締め切るため、後の残業は翌日発送の整理だけとなる。恐らく最も過酷になるのは明日の留守番だろう。明日だけは外しておいてよかったと、我ながら感心する。 疲れた体を引きずるようにしてアパートに戻ったのは夜の十時を少し回ったあたりだった。
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