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「お客様、そろそろお時間になりましたが、延長はどうされますか。」
なんとも慌ただしいシステムである。
ボクはやるせない思いだけが残ったまま、このシステムを継続する気にはなれなかった。
おねいさんたちとの触れ合いは楽しい。そしていい気持ちにもなる。
しかし、それ以上に罪悪感と悶々とした感情は払拭できなかったのである。
「いいえ、これで帰ります。すみません。」
ヒデは別の席で指名の女の子とイチャイチャの真っ最中なのだろう。立ち上がる気配すら感じさせない。
ボクはケンさんやヒデには黙ったまま、コッソリと店を出た。
外に出て夜の空を見上げると丸い月が出ていた。あたかも頬を染めたような、やけに赤い月だ。その周りでニッコリと微笑んでいるかのような星たちがチカチカと輝きながらボクを見下ろしていた。まるで不甲斐ない今宵の出来事を嘲笑っているかのように。
しかしボクは彼らに笑みを返す事もなく、疼く気持ちを密かに抑えながら駅へと向かうのである。
独り、多くの虚しさを覚えてはいたけれど・・・。
この夜の出来事が、ボクに何らかのエピソードをもたらすことはなかったのだが、これから始まる物語のプロローグとしては十分すぎるほどの発端になったのである。
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