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▽エピソードその八▽
一夜明けて日曜日。
気温は低いが天気はよく、外ではスズメが元気よくさえずっていた。
目を覚ましたボクは、リビングのコタツの上の残骸を見て、昨夜の出来事を思い出した。
空になった缶、開いたままのポテチの袋、冷め切ったおでんの残り。つけっぱなしだったコタツのスイッチ。おかげで朝一番からヌクヌクだ。
まずは顔を洗って口をゆすいで、冷め切ったおでんをレンジで温め直す。冷凍庫からお気に入りのおにぎりを取り出し、これもレンジへ投入する。気分がよければ目玉焼きぐらいは作るのだが、今朝は少々かったるい。
あらためて昨夜の悪友たちの讒言を思い出してみる。
結局のところ、彼らはミウの評判を確かめに店に行ったに等しい。しかも、その調査の結果はすこぶる良かったらしく、彼らが受けた印象も相当なものだったに違いない。
ボクはさらに彼女のことが好きになる。ただそれだけのことだった。
朝のうちに片付けと洗濯を済ませてしまい、午後には軽くジョギングをこなす。夜のために少し昼寝をした後は、さあ、訪問の準備である。
いつものようにシャワーを浴び、髭をあたる。身だしなみは大切だ。
そして静岡から持ち帰ったお土産を大事に鞄に詰め込んで、あとは夕日に向かって外出するだけである。まだ時間は早かったのだが、以前のエピソードのこともある。足早で新宿駅を目指していた。
すると案の定、ミサからメールが届く。
―もうすぐ新宿。出勤前に会える?―
きっと恋愛の神様がボクの背中を後押ししてくれているに違いない。そう思えるほどのタイミングだった。
―あと十分で新宿。こないだのパスタの店で集合、それでいい?―
すると直ぐに返事が帰って来る。
―うん。―
ってね。
駅に着くと、一目散に目的の店へと向かう。
おのずと心臓がバクバクしてくる。
店に着くと、すでにミサは中で待っていた。
「やあ。あ、あけましておめでとう。今年もよろしく。」
ありきたりの挨拶だが、今年会う初めてのとき。少しどもり気味だったのが恥ずかしい。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。うふ、これでいい?」
丁寧な挨拶だった。
これから社会人になろうという姿勢からか、その練習も兼ねているなら大したものだ。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たとこよ。」
「またこうして会えてうれしいよ。」
「私もよ。」
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