▽エピソードその八▽

10/14
前へ
/130ページ
次へ
週の始めでもあり三連休も終わったので、新年会もやや下火になりつつあるのか、さらには平日でもあるので、残務整理も多くはない。翌日の発注分だけ確認すれば会社を出られるという算段である。それでも時計を見るとすでに八時は回っていた。 雨のせいか、さほど冷え込まない夜の雨道を傘を差しながら、やや急ぎ足で『ロッキー』へと向かう。 店ではヒデがカウンターで今か今かと扉の外を伺いながら待っていた。 ボクが店の扉を開けると大声でボクを呼びながら手招きをしている。 「やっと来たか。待ちくたびれたぞ。もうハイボールを何杯空にしたと思ってるんだ。」 「すまんな。だけどウチの業界だと年末年始は忙しくなかったら給料出なくなるよ。ほら、ここだってそこそこいっぱいだろ。ユウさん、ボクはビールで。」 カウンター越しにいるユウさんにオーダーしてからヒデと対峙する。 「まあいいや。それより次のデートはいつなんだよ。」 「だから、それは教えないって言っただろ。」 ヒデはむんずと腕を組んで、 「まあそれもいいや。だけど、どうやって連れ出すのか、そいつは教えてくれよ。アキラなんかよりもオレの方がキャリアは格段に上なのに、なんでど素人のおまいさんがいとも簡単に連れ出せるんだ。運がいいのも聞いたけど、なんかあるんだろ?」 「何もないよ。でもさ、本気で恋をしろって言ったのはヒデだよ。その通り、通ってみれば彼女はキミたちが聞いてきたとおり、いやそれ以上にいい子だった。そして、たまたま街中でバッタリと出会った。それだけだよ。何にも参考になることなんかないのさ。」 「で?どこまでやったんだ。」 「一緒にご飯食べただけだよ。まだ告白だってできてない。お店の女の子と客が一緒に食事をしたっていうところから何も進んでないさ。」 「で?どうしたいんだ。」 「彼女はとてもいい子。今はまだ付き合えないけど、いつかちゃんと告白して、ちゃんと付き合いたい。」 「何で今はダメなんだ?」 「まだ大学生なのさ、彼女。この春に卒業を控えているから、卒論と試験に追われてる。彼氏どころの話じゃないだろう。だから今はまだダメなんだ。」 「優しいねえおまいさんは。結局のところ、ノウハウは人柄って事か?オレじゃ何年かかってもダメってことか。」 すると、後ろから不意をついてケンさんが口を出してきた。 「そういうことだよ。」
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加