▽エピソードその八▽

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ケンさんはヒデの隣の椅子に座って話し始める。 「ああ見えて、キャバの女の子たちって案外堅いんだ。その辺のOLの方がよっぽど緩いかもよ。考えても見ろ、毎日男を相手に仕事してるんだ。本心はウンザリなんだよ男なんか。だから彼女たちを食事に誘うことすら高いハードルになるのさ。」 「でもさ、彼女たちとエッチしたって話、良く聞きますよ。」 「それって、誰から聞いた?女の子から聞いたか?そんなのは殆んどがウソだよ。男なんてみんな見栄っ張りなのさ。オレだって食事に誘えたのはまだ二、三人だ。それもスケベなことを想定してちゃいけねえ。酔った勢いもでもダメだ。そういう意味ではヒデが女の子とエッチ出来る可能性は限りなくゼロに近いな。」 そこまで言うとケンさんはボクの方を見て、 「アキラが誘えた女の子はどんな子だ?」 「大学生です。もう今月で店は辞めるんです。卒業ですから。」 「いつから入った子なんだ?」 「まだ半年も経ってないと思います。」 「なんだ、ズブの素人じゃねえか。そりゃ単に普通の女子大生を店の中でナンパしたに等しいな。ヒデ、お前も女子大生をターゲットに恋人募集中ってことで、本気で恋をしに行ったらどうだ?」 「うーん。そんなことがホントにできるならね。きっとアキラのことですから、いいようにあしらわれてるだけですよ。そのうちに泣きが入るに決まってるさ。」 「そうかな。ヒデはアキラのことが羨ましいだけだろ。キャバ嬢だって店を出れば普通の女の子さ。面と向かってちゃんと対処できれば臆することはないんだ。オレなんかは年代が違うと話が合わなかったりするけど、お前たちならまだ大丈夫だ。」 ヒデはしばらく考え込んでいたようだったが、思い立ったが吉日と言ったところが彼の良いところでもある。 「じゃ、早速今夜にでも行きますか。」 「どこへ?」 「そんな女子大生がいそうな店に。」 ケンさんは呆れたような顔をしてヒデの肩を叩く。 「行くならお前さん一人で行って来い。アキラはもうちょっとその店に通わないとダメだろうし、オレはお前とは目的が違う。」 そして今度はボクの方へ視線を移し、 「焦るなよ。だけど押すところは押さないとダメだぜ。お前さんは優しすぎる。時にはそれが諸刃の剣になるってことを考えておけよ。」 「はい。」
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