▽エピソードその九▽

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▽エピソードその九▽

前回の逢瀬から一週間ほどが経過し、さすがに新年会シーズンも幕を下ろしたであろう一月の半ばあたり。次の週が彼女の『ピンクシャドウ』でのラストウイークとなる日曜日を迎えていた。この店の一週間は日曜日に始まって土曜日がエンドである。つまり、日曜日と土曜日のあと二回の出勤が彼女に課された最後の試練なのである。 彼女から聞いた話では、卒業論文は無事に提出できているものの、まだ最後の試験が残っている。ボクもそれを邪魔するわけにはいかない。 かといって彼女に会いたくないわけもなく、今日あたり、出勤前に連絡が来ないかなと思っていた。ボクから連絡はしない。そう決めていたからでもある。彼女から言われていた訳ではないが、今は大事な時期だと思うし、もし会ってくれるとしても、彼女のタイミングでいいと思っていた。いや、我慢していた。 そんな折、今日は彼女の出勤日。出勤前の時間が今までのデートのタイミングだった。 果たせるかな、丁度お昼ごろに彼女からメールがあった。 ―今日も出勤前に会えるかな?― ―会いたいと思ってた。ご飯食べる?― ―うん。― ―何が食べたい?お肉って言ってたかな?― ―うん、お肉がいい。― ―じゃあ、三時にこないだの喫茶店で。― 最後に―待ってるね。―って返ってきたので、ホッと胸を撫で下ろす。 ボクにとっては期待していた通りのタイミングで、期待していた通りのスケジュールである。胸が踊らないわけがない。 さて、次に考えるタイミングは告白のこと。「ちゃんとする」と言ってから色々と考えてはいた。だけど、いざ告白ともなると緊張する。 さあ、記念すべきデートの日だ。いつものルーチンどおりに身支度を整え、タートルの上に半そでのシャツを重ね、最後にダウンを羽織って、いざお出かけである。 新宿に着くと、まずは駅周辺で花屋を探す。ちょっとしたブーケをあしらってもらい、大き目の紙袋で全貌を隠した。 待ち合わせは午後三時。あと三十分もある。なんと早くに出かけたものだ。どれほど待ち焦がれていたことかがわかる。 とは言え他にすることもなく、ぶらぶらとウインドウショッピングよろしく専門店街を歩き回っていたが、ファッションにそれほど興味の無いボクは、二~三店舗も見てしまうと、あっという間に飽きてしまう。
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