▽エピソードその九▽

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仕方なく、待ち合わせの喫茶店に向かおうとした時、コンビニの前を通りすがりに思わず立ち止まってしまった。突如として面白そうなガチャガチャポンが目に飛び込んできたのである。 ガチャガチャポンって知ってるかな。透明のケースに丸いカプセルがたくさん入っていて、コインを入れてレバーを回せばカプセルが出てきて、その中にはグッズが入っているという、一種のおもちゃのくじ引きのようなもの。最近はテーマ別に数種類のガチャガチャポンが並んでいるのが普通のようだが、ボクが見つけたのは揚げ物タオルのシリーズだった。これは面白い。 ボクはコインを入れて、二回レバーを回した。当然の如く二個のカプセルが出てくる訳だが、直ぐに中身を確認したりしない。今日会うときの話ネタにしようと思い、そのまま鞄の中に押し込んだ。 少し楽しい気分になったまま喫茶店についたボクは、二人がけのテーブルを確保してコーヒーを注文する。多少待つことに苦痛を覚えないボクは、色々な想像をしながら彼女が来るのを待つのである。そして待つことを楽しむのである。 さて、なんて告白しようかな。どのタイミングかな。ガチャポンは今日でなくてもいいかな、なんてね。 そんなことを想像しながらコーヒーをすすっていると、ミサが笑顔で姿を見せた。 「ごめん、待った?」 「あんまり待ち遠しくて早く出てきちゃった。それに、待つのは苦手じゃないから。」 「うふふ。」 今日もやわらかい笑顔が一段と眩しい。 「何か飲む?」 「そうねえ、ミルクティーにしようかな。」 彼女のオーダーは、注文を聞きに来たウエイトレスに即座に伝わり、滞りなくミサの目前に運ばれる。 彼女がカップに口をつけて置いたタイミングで、ボクは姿勢を正した。そして、大き目の紙袋からブーケを取り出して彼女の前にかざす。 「今日は会ってくれてありがとう。ボクはキミのことが好きです・・・・・。」 そのあとの言葉に一瞬つまる。 「今、まだ大変な時期だと思うけど、どうしてもちゃんと伝えたくて。ボクの恋人になってください。」 「この間の告白は本当のことだったのね。私もアッくんが好き。でもアッくんはきっとこんな仕事をしていた私を嫌いになると思う。好きだと思ってるのは今だけよ。」 「そうじゃない。いつもずっとキミの事を考えてた。それにボクだって客だったんだから、この仕事についてはとやかく言う資格はないじゃない。」
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