▽エピソードその九▽

3/9
前へ
/130ページ
次へ
「えっとね。それに・・・。」 そこまで言って口をつぐんだ。 「どうしたの?ボク、ミサのこと大事にする。卒業までちゃんと待つ。」 「ホントに私でいいの?それに、卒業が決まるまではなかなか会えないよ。それに、卒業しても東京にいるとは限らないよ。内定もらってる会社の赴任先がどこって決まってないし。離れ離れになるかもよ。」 「いいんだ。ボクはこう見えて忍耐強いから。それに少々遠くても会いに行くから。」 「うふふ。」 彼女はボクがかざしていたブーケを受け取り、 「ありがと。やっぱ優しいね、アッくん。」 「ホントに好きなんだ。でもお店の中ではミウちゃんって呼ばないとダメなんだね。」 「うん。でも今日は来ちゃダメよ。もうミウは指名できない女の子だから。そしてその名前は今日で忘れてね。」 「でも、ミウちゃんのラストナイトになる日は行くよ。しかもラストの時間に。ボクの手で送り出したいから。いいでしょ?」 「アッくん。」 ボクはとうとう手に入れた。素敵な笑顔の女の子を。飛び上がりたいほどうれしかったが、さすがに店の中では憚れるべきだった。 ウキウキした気持ちを落ち着かせるべく、次の手段に講じる。 「ねえ、面白いものを見つけたんだ。」 そう言ってボクは鞄の中から丸いカプセルを出して見せた。 「何これ?」 ミサは二つのカプセルを物珍しそうに、手にとって眺めていた。 「面白そうなガチャポンがあってさ。揚げ物のタオルだって。どっちか好きな方をあげるよ。もうひとつはボクが持つことにすれば、それはそれでお揃いになるでしょ。」 「面白そうね。じゃあ、私はコッチ。」 そう言って一つのカプセルを手に取る。 「じゃあ、ボクはコッチ。」 ボクも、もう一方のカプセルを手に取った。 二人で「せーの」って言いながらカプセルを開けると、ボクのカプセルからはトンカツのタオルが、ミサのカプセルからはアジフライのタオルが出てきた。 「私のエビフライ?エビって食べられないからいやだなあ。」 「それ、アジフライだよ。」 「でもトンカツの方がいい。」 ボクは「はいっ。」ってトンカツのタオルを渡す。ボク的にはアジフライの方が形も面白いと思ったんだけど、彼女はトンカツの方が気に入ったようだ。 「これって友達に見せたら自慢できそう。」 「喜んでくれるなら、うれしいよ。」
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加