▽エピソードその九▽

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「優しいんだね。ボクには絶対に無理だな。でも病院勤務だったら、そんなにアッチコッチに勤務先なんてないんじゃないの?」 「そういう人を病院に派遣する会社なの。だから派遣先がどこかわからないし、転勤だってあるかも。」 「そんなに遠くへ行っちゃうの?」 「どうかな?大阪とかもあるかも。」 話を聞くたびにドンドン不安になってくる。ボクだって転勤が無いわけじゃない。全国とは言わないまでも各地に支店はある。あと二年もすれば希望を出せば転勤だってできる。ただし希望の転勤先なんて聞いてくれないけどね。 そんな折、オーダーした肉が仕上がったようだ。 「わあ美味しそう。」 こんがりと香ばしい匂いを漂わせる肉は、お腹を空かせた若者には堪えがたいご馳走だ。 「いただきまーす。」 肉を頬張るミサの笑顔もまた可愛い。 ボクは最高の天使を手に入れた。そう思える瞬間だった。 「好きだ」と言って告白し、「私も好き」って言ってもらい、やがては遠くへ離れて行くかもしれない彼女。でも、そんな先のことなんて考えていられない。今の彼女が、彼女の笑顔が好きだから。     
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