▽エピソードその九▽

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ミサがボクの彼女となったお祝いの宴は、楽しい雰囲気の中、あっという間に時間が過ぎてしまう。デザートをたいらげる頃が、ちょうどそのタイミングだった。 「そろそろ行かないと。」 「やっぱり何だか違和感があるな。自分の恋人をエッチな店に送り出すなんて。」 「大丈夫よ。もうアッくんだって指名できないのよ、最後の日以外は。誰にもエッチなことなんてさせないもん。社長ともちゃんと約束ができてるから。」 「迎えに行ってもいいんだけど。ボクはクルマ持ってるし。」 「ダメよ。もう飲んじゃったでしょ。無理しないで、大丈夫だから。ボーイさんとか、みんな女の子の味方だから。」 ボクの気持ちは不安定なまま店を出る。 それでも彼女は、店の近くまで送り届けることは許してくれた。その間中、彼女の手をずっと握ったまま歩いていた。 あと少しで店の看板が見える角まできたとき、 「この辺でいい。」 ミサはボクの目をじっと見つめてくれた。そして彼女がそっと上を向いた瞬間に、ボクは思わず彼女の唇を奪っていた。一瞬のことだった。ほんの数秒だった。しかし、そのほんの数秒で、ボクたちは互いの気持ちとぬくもりと百をも超える言葉を交し合った。 他人目もあったが、ぐっと抱き合った。 「大丈夫。心配しないで。」
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