▽エピソードその十▽

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その特技を活かして試しに彼女の肖像画をデッサンしてみたら、意外といい出来具合なのに自分でも驚いている。これを額に入れて彼女へのプレゼントにしようという考えである。 お店の中では写真撮影厳禁なので、デッサンのためのお手本はボクの脳裏に浮かんでいる彼女の笑顔だけだった。それでもボクの頭の中には、いつも彼女がいた。だからお手本にする写真なんかいらないんだ。あともう少し細かい部分に手を加えれば完成する。さあ、今夜も夜更かしが楽しくなる。 そろそろハードな仕事からも解放されかけているので、帰宅後の時間がゆったりできる。 もちろんヒデからのお誘いの電話が何度かあったが、すべて断ったし、自ら『ロッキー』に出向くこともなかった。 そして金曜日の夜。彼女へのプレゼントが完成した。 後はおしゃれな額縁を買うだけである。 土曜日は新宿へ出向こう。時間はたっぷりとある。 描いた絵の大きさはA4程度。この大きさならタイプも選び放題である。 折角なので、文具屋ではなく画具店に足を踏み入れる。 中々このような店に入ることもないので、まずは多くの品ぞろえに驚かされる。絵筆だけでも専用のショウケースがあり、絵の具に至っては大きな棚の全てに様々な色のチューブが埋まっていた。 さて、問題の額縁である。もちろんアルミ製ではなく木製のラインナップに目線を送る。予算は五千円ぐらいかな。ボクのデッサン自体は芸術性の低いものなので、あまり豪華な額縁ではバランスが取れないしね。 色々と思案した挙句、数あるアイテムの中でボクは、割とシンプルな一品をチョイスした。もちろん予算内に収まったので、何も言うことはない。 デッサンは持参しているので、前もってセットしてもらって包装をお願いする。リボンをクルッと回してもらえば完成である。 さあ、あとは明日を待つだけだ。さらには、ヒデから電話がかかってこないことを祈るのみである。 昨夜から今朝にかけて、危惧していたヒデからの連絡はなかった。ゆっくりと眠れたおかげで、目覚めはバッチリである。 朝のうちに軽くジョギングをしたボクは、汗を落とすためにシャワーを浴びて、次いで髭をあたる。いつものルーチンで身だしなみを整えて、彼女からの連絡を待つのである。 待っている間に、今日のブログチェックをしておこう。
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