▽エピソードその十▽

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さっそくパソコンの電源を入れて、インターネットで『ピンクシャドウ』のホームページを開く。そして女の子たちのブログを閲覧する。 ミウの新しい情報は更新されていなかった。つまりは通常通りであるという事。 但し、お店のアナウンスに彼女がラストの日であることは掲載されていた。 午前中のうちに出かける準備を終えているので、のんびりしていたが、少々空腹感を覚えていた。これから食事だというのに、ボクの胃袋が不満を漏らしていたので、昼は軽くトーストを焼いて小腹の嘆きを抑えておいた。 これでやっとすべての支度が終了したことになる。 そしていいタイミングだった。ミサから電話が入る。 「今日が最後だよ。来てくれるの?」 「行くよ。最後の時間に。ボクは指名できるんだよね。」 「うん。最後の時間に来るって言ってあるから。」 「ご飯タイムは貰えるの?」 「うん。何時でもいいよ。今からだと二時ぐらいかな。」 「じゃあ二時。いつもの喫茶店で。」 「うん。」 これで最後の出勤前の約束は完了。そしてすぐにも出かける支度にかかる、 包装済みの額縁を紙袋に入れ、クルマに搭載。 ボクの計画では、食事デートの後、一旦帰宅してクルマでもう一度出かける予定。だから食事デートの時には、まだ内緒にできるのである。 喫茶店にはボクの方が先に到着した。 何だか今日はレモンティーの気分だった。 時計の針が約束の時刻を示す少し前、店のドアが開いて彼女が姿を見せた。 「待った?」 「うん。昨日からずっと待ってたから。」 「うふふ。私も。」 彼女はスッとボクの正面の席に座り、ボクの手元を確認してからミルクティーを注文する。 「今日が最後だね。やっとこの日が来た。そんな感じがするよ。」 「うん。でも今日はどうするの?終わり際に来るんでしょ?」 「一旦帰るよ。そしてクルマに乗り換えて行くようにする。十一時半を目指して行くから、店長にもそう言っておいてくれる?」 「うん。」 まだデッサンのことは話さない。言いたくなる気持ちをグッとおさえて、冷めた紅茶と一緒に喉の奥に流し込む。 思い起こせば、彼女と初めて会った日から、まだ何ヶ月も経過していない。それでもボクは彼女と同じ空間の中でまどろむ時間を過ごすことができている。 ボクも聖人君子ではないので、彼女に対して狼である部分を感じないわけではない。彼女が欲しい。その気持ちは持っている。
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