どんなことがあっても。

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――雨は、やむ気配はない。 『……ごめんな』 ぼんやりと雨を見つめながら、ついさっき、好きな人に言われた言葉を思い返す。 好きな人……彼方(かなた)とは小学校に入ったときからの友達で、私はずっと彼方のことが好きだった。 今から1ヶ月前、私が中学3年生に上がるのと同時にこの街から遠く離れた土地へ引っ越すことが決まった。 小学生の頃から暮らしている大好きなこの街を離れるのも友達と離れるのもいやだったけれど、何よりも彼方と離れるのが寂しくて仕方なかった。 その思いをぶつけるように、私は勇気を出して彼方に告白した。でも、彼の返事は「ごめん」という一言だった。彼には好きな子がいることは知っていたから、その返事が来ることはわかっていた。それでも、どうしてもあきらめたくなくて、私は最後のわがままを彼に言った。 引っ越すまでの1ヶ月だけでいいから、付き合ってほしい。 最初はもちろん、そんなことはできないと断られたけれど、私の粘り勝ちで、私は彼方の1ヶ月間を手に入れた。 彼方は律儀で、デートには付き合ってくれても、手を繋ぐことさえしてこなかった。だからと言って、突き放されるわけではなく、やさしく接してくれた。 私は彼方のそういう筋が通ってるところが大好きだった。 そして今日、中学2年生最後の終業式の後、彼方に呼び出され「やっぱり恋愛対象には見れない」ときっぱり断られた。 彼方の気持ちが変わらないことなんて、最初からわかっていた。彼方があの子を見る目はいつもやさしくて、本当に好きなのだと切ないくらいに伝わってくる。 そして、あの子も彼方のことが好きだということも、私は知っていた。 二人はお互いに想い合っている。 でも私は悔しくてつらくて、「彼方と付き合ってるの」とあの子に言ってしまった。すぐに罪悪感が襲ってきたけれど、私は真実を告げないことを決めた。 時が経てば、きっと彼方は彼女を手に入れるために動くはずだ。だから、私は何も言わずにここを去るの。それくらい意地悪させてほしい。 ふたりにしてしまったことを考えると、また涙が出てきた。でも、大丈夫だ。私の涙を見ている人は誰もいない。
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