ゆらゆらと動き始めた時間

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「ただいまー」 小さな声で言ってから、私は玄関の古い引き戸を開けた。 前は古いなりにカラカラとスムーズに動いたけど、今はちょっと引っかかりながら動く。 高校を卒業するまでは、よく来ていたおじいちゃんの家。 大学に進学してからは、あまり顔を出さなくなってしまった。 もちろん、大学が遠くて通学が大変だったこともあったけど、何より一番の理由は、いま現在、私の後ろに立っている人が原因だ。 3年前、私が大学を卒業する間際に、おばあちゃんが亡くなった。 心臓に病気が見つかってから、1年ののちだった。 おじいちゃんはこの家で一人暮らしをしていたんだけど、つい先月、転んで足の骨を折ってしまったんだ。 それで今は入院中。 おじいちゃんが家のことを気にしていると知って、私はこの町に戻ってくることにした。 ちょうど、会社を退職したばかりだったし。 「懐かしいなあ」 のんきなことを言いながら、秀君は私よりも先に、家に上がっている。 自分の家は向かいなのに、どうしてここに来ているのか。 何を考えているのかさっぱりわからず、私はため息をついてから靴を脱いだ。 おばあちゃんが丁寧に掃除をしていた家の中は、少し埃っぽくなっていた。 おじいちゃんの入院後、時々お母さんも様子を見に来ていたらしいけど、毎日というわけにもいかない。
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