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駅前の風景は、少しだけ変わって、でもほとんどは見覚えのあるものばかり。
変化のない、単調な町。
ここに、今日から私は住むのだ。
と、その時、薄手のコートのポケットに突っ込んでいたスマホが震えた。
着信画面には、お母さんの名前。
「もしもし」
「あ、知香、着いたの?」
いつもながら、お母さんはテキパキと喋る。
「うん、今、駅を出たところ」
「ああ、良かった!
あのね、あなたに頼んでおくのを忘れて……」
「ちい」
電話越しのお母さんの声を遮るように、別の方向から声がかけられた。
スマホを耳にあてたまま、私がとっさに振り向くと、そこには背の高い人影。
「え?」
「知香?
聞いてる?」
お母さんの声も、今の私の耳には届かない。
「久しぶりだな」
と言って、私に近づいてきたのは、肩幅の広い大人の男性だった。
記憶の中よりも、その姿は少し背が伸びていて、がっしりとして、前髪が長かった。
「秀、くん?」
「おう」
正解を返した私に、彼はニッと片頬を歪めるような独特の笑みを浮かべる。
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