第一章

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 誰もこの点に気付いてないんで黙ってる。本能ってことにしとけば東子もあんまり怒らないだろ?  心置きなく巻きつけるってもんだ。 「嫁のこと知りたいのは当然の欲求なわけで。……ほう、ああいうのも好きなのか」  かっこいい系女子の東子だが、かわいいデザイン好きだよな。そういうギャップもたまらん。  東子の視線が3秒以上とどまっていたものは全て記憶しつつ追う。ガチっぷりに背後の二人が「止めたほうがいいか」「無駄じゃないか」と議論してるのは無視しよう。 「東子、美容系は興味ないんだよな。まぁスッピンでじゅうぶんかわいいし、俺も別にいいけど化粧品あげても喜ばなさそうだな。かわいいデザインのなら雑貨扱いでうれしがるか。使わず飾るだけでも」  移動する途中、隣の店の前に立っている高齢者がいた。  東子が意図的に歩調を緩める。  もしそのままのスピードだったら、急に方向転換した高齢者のカートともろにぶつかっていただろう。相手はまったく周囲を見ていなかった。  向こうから歩いてきた通行人は何もしなかったのでカートがぶつかり、「痛いっ」「ごめんなさい」「気をつけろ」となっていた。 「あらあら。危なかったですわね」 「そうだね」  …………。 ☆  雪華がついにアクセショップへの誘導に成功した。  高級宝飾店ではなく、リーズナブルな十代向けの店だ。どのデザインが好みか知りたいだけであって、これでじゅうぶんなのだ。 「東子様はどういうのがお好きですか?」 「いや、あたしアクセの類一個も持ってないし。つける機会もないしね」  友達を遊びに行くこともなかったのは俺のせいだ。すまんと心の中で謝る。 「これからいくらでも機会作る、っていうかデートしたい東子のデート服見たい俺のためにおめかしした姿見たい今すぐ好きなだけ買っていやそれより俺が選んだ俺好みの格好させた」 「出ちゃ駄目ですってば九郎様!」 「ここで出てったら何してたかバレバレじゃないですか!」  二人がかりで止められた。  む、そうだった。 「こういうの、つけなくても持ってるだけでも楽しくありません?」 「雪華さんけっこう持ってるよね」 「ええまぁ、どちらかというと参考資料としてですわ。私の一族は鶴の織物が得意、つまり職人です。デザインや作り方に興味がありまして、研究のためですわね」
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