第一章

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 現代では織物じゃ生計立てていけないから、一般的な布地のデザインやそれを使ったバッグ・雑貨の製作などにシフトしている。 「いいねー……あたしは超絶不器用だから。家庭科全然ダメで」 「誰しも得意不得意ありますわ。それに九郎様がおできになりますもの」 「うん。あいつが来てよかったと思うのは食事ね。マジおいしい」  分かった! これからも毎日愛妻料理ならぬ愛夫料理作り続けるよ!  優秀な部下のおかげで東子が好むデザインは把握した。  しかも、それだけじゃなくこんな提案までしてくれた。 「せっかくですから、九郎様に何かお土産買われてはいかがですか?」  なんてナイスアイデアだ!  思わずガッツポーズ。  後で特別手当をやろう。 「九郎に? ……食品売り場で食材買ってこうか」 「それはやめましょう。ただのお遣いですわ。他にないですか」  キッチン用品売り場。 「料理道具でも」 「それもどうかと思います」  しゃもじでもおろし金でも、東子がくれるものならなんでも喜ぶよ俺。  文具売り場。 「学校で使うノートの予備でも買っとく?」 「実用品から離れませんこと?」  ペット用品店。 「猫・小型犬用ベッド。ドーム型のほうがあったかいかな」 「それ犬猫用ですわよ?!」 「蛇用なんて売ってないし。あ、編み上げカゴのほうがいいってこと? コブラみたいな」 「笛吹いたら出てきそうですわね。いえ、どっちもやめましょう」  ペット扱い……。  空しく黄昏る俺の肩を、剛力と流紋が慰めるようにたたいた。  本屋。 「家計……」 「家計簿もやめましょう。人間の服装研究用としての男性向けファッション誌もなしですわよ」 「て言っても、九郎が読む作家もジャンルも知らないよ。…………。……一つあった。少女漫画とロマンス小説(女性向け)」  雪華も剛力も流紋も沈黙。 「…………。私どもが買っても何も問題はないですが……。九郎様へのお土産としてものすごく間違ってますので除外しましょう」  え、あらすじ見て東子が読みたいと思うもの買ってくれればいいのに。どういうシチュ好きなのか分析できるじゃないか。  わざわざ女性向けばっか買ってそこらへんに積んどいてるのは、東子に読ませて好み知るためだよ。  うーんと東子はうなりながら、さりげなく作業用カートを引いた。店員が入れ替え作業のため置いておいたものだ。
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