第一章

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 歩いてきた男子高校生がつかみそこね、こけた。  周囲の人が何事かと振り返る。そいつは恥ずかしくて赤くなり、慌てて出て行った。 「東子様、一体何を」 「あの男は隣のクラスにいた奴だ。万引き・いたずらの常習犯でな。周りは皆知ってる。何度補導されても懲りず、この前ついに強制的に退学させられたのさ」  俺は教えてやる。 「あいつは大方、カートの中の商品を万引きするか、カートごと押して行って違うところに置き、店員を困らせようと思ったんだろう。東子はそれを察して防いだわけさ。バランス崩して転んだのは自業自得だな」 「そういうことだったんですか……」  雪華にもテレパシーで教えておく。  東子はカートを元の位置に戻しながら言った。 「そうだ。九郎へのお土産思いついた」  向かったのは衣料雑貨店だった。  時期的に冬のあったかグッズが並んでいる。東子はその中から落ち着いた柄のブランケットを選んだ。 「これにしよ。あいつ寒がりだから」 「きっと喜びますわ」  うん、東子の膝の上でとぐろ巻いてその上からかけてもらえると完璧だ。 ☆  ショッピングモールからバスに乗り、近くの小学校手前のバス停で降りる。  歩いていると前方から親子連れが歩いてきた。さらにそれより後ろに2,3歳くらいの女児が一人で。  東子が怪訝そうに眉をひそめた。 「どうかしましたか、東子様?」 「向こうにいる女の子。たぶん迷子だ」 「手前の親子連れが家族じゃありませんの?」 「家族だったらたまに後ろ振り返って、ついてきてるか確認するはず。あんな小さい子、ずっと一人で歩かせてたら危ないでしょ。女の子も前の親子連れに視線向けてないし、どっちかっていうと後ろチラチラ見てる。誰もいないのに。追いつこうとするそぶりもないし」  その通りだ。女児はそこらのアパートの駐車場に入り込んだり、時折来た方を振り返りはするものの、前方は気にしていない。 「ほら、この小学校がにぎやかでしょ、今日お祭りやってるみたい。あの子の兄姉が小学生で家族で来てて、はぐれ、一人でフラフラ出てきちゃったんじゃないかな? ……ねえ、あなた、お父さんかお母さんは?」  東子は迷わず近づき、腰を落として目線を会わせ、聞いた。  今時の子は知らない人から声かけられても無視しろと教えられてるが、優しくて真面目な女子高生だったからか、東子の穏やかな口調のためか答えを返した。
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