プロローグ

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プロローグ

 見たこともないほどの巨大な爆撃機から投下された()()は、高度千七百(フィート)(約五百メートル)の低空で、炸裂した。  刹那、中性子線(ニュートロンビーム)が、周囲の空間に放射され、高エネルギーの噴流によって励起した空気中の電子が、基底状態に戻ろうと一斉に碧白い閃光を放つのを、私は、「知覚」した。 (月や……)  あたかも月が落ちて来たかのような、碧白く輝く光の球が、私の目の前に、突如、出現する。  しかし、それは僅かに炸裂から百万分の数秒の出来事に過ぎなかった。 (核、分、裂……)  私が『菫の力』で行う十一次元超弦粒子の「崩壊」や、宇宙背景放射へのエネルギーの「還元」とは、全く異なる物理現象であった。  核分裂――原子核に中性子を叩きつけることで質量欠損を誘発し、この低次空間(せかい)に無理やりエネルギーを「生成」したのだ。  そう悟った瞬間。  月は消えさり、眩い、小さな火の球が生じた。  火球は、瞬く間に直径二丁(約二百二十メートル)にまで膨張すると、灼熱の波濤と衝撃波を地表へ向けて投げ放つ。  物語は、()()ひと月余り前から、始まる。 **     
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