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検査入院から退院した午後は薄曇り。
病院からバス停までの長い下り坂にて、
踏みしだかれた桜が押し花模様を作る。
そんな坂道は気を許せばどこまでも転がり落ちそうで、人気が無い分、誰にも当たらず一気に下まで。
バスは20分おきに1本らしい。
錆びた時刻表を見上げていると、
背後から声がした。
「…中園さん?」
振り返ると、学生風の男がスタジアムジャンパーから、突っ込んだ両手を出した。
目深にかぶったベースボールキャップで、
その表情はほぼ隠れている。
「…どちらさん?」
「聞いてへん?俺のこと」
男が苦笑と共に帽子を脱ぎ、
耳横で切り揃えられたハシバミ色の髪が、
淡い日差しに揺れた。
そしてあぁ、と思った。
ただ、あぁと。
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