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「…ひょっとして横山先生の弟?」
透き通るような白い肌。
さくらんぼ色の唇。
目の前の美青年は、
桜の季節とは不似合いな汗をかく。
「そう…横山 昴」
彼は言うと、また目深に帽子を被り、
少し生えた髭を指先でなぞった。
「へぇ。じゃあ私の病気のことは勿論知ってるんやんな?」
「まぁ…うん」
「じゃあ友達になったとして、すぐバイバイやけど?」
「…そんなんわからんやん」
「は?わかってるやん。綺麗事言わんといて」
検査入院する前、無意味にバーバリーのスプリングコートを5着買い、貪るようにシャネルのコスメを買った。
今は親の遺産を死ぬまでに使い果たすことくらいしか、思い浮かばない。
「…綺麗事やなくて、現実の話。
治療はせえへんの?」
「当然やろ。この髪が抗がん剤で抜け落ちるとかゾッとするわ。私は死ぬまで可愛くいたいねん」
病室に持ち込んだアイロンで、
私の髪は胸元に緩いカールを描く。
自慢やないけど、女友達がおらんかったんは、この可愛さのせいもある。
大部分は性格の悪さやと、人から指摘を受けたこともあるけど、女は自分より綺麗なもん嫌いな生き物や。
「…まぁ、ええんちゃう」
「適当な返事やなぁ。それでも友達ごっこするつもりなんやったら、ちょっと手始めに付き合って」
「どこに?」
「不動産屋。一人暮らしする部屋探すから。女だけやと足元見られるやろ?」
「…十分闘えると思うけど、了解した」
横山 昴は苦笑し、
私の何かをスポンジのように吸い取る。
それが酷く心地好くて、
とてつもなく悲しくなった。
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