BANANA

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数時間後の夜は、 目の前でパスタをきれいに食べる昴に見入る。 「即決しすぎやとは思うけど、あの部屋良かったな。ベランダ南向きやし」 「遊びに来んといてな。あ、でも引っ越しだけ手伝って」 私のオーダーは手付かずのまま干からびていく。 魚介のなんちゃらパスタ。 「勝手やなぁ。てか、それ食べへんの?」 「ほんまはこれ食べたくなかったんかもしれん」 フォークの先端でクルクルだけはしてみる。 「……ふうん。ほなこれ一緒に食べる? そしたらちょっとは食えるやろ」  「結構です。 私、誰かと鍋つつくんも苦手」 「鍋パする友達もおらへんくせに」 腹が立つ。だがそれで腹に隙間は出来るものだ。 「……ちょっとだけ食べれるかも」 「おお、じゃあ食え食え」 無邪気に笑う横山 昴。 その頬に、片笑窪(えくぼ)もぷくりと無邪気に浮かんだ。 「……彼女ってどんな子?」 「……別に。普通。大学から大学院まで一緒の同級生」 昴はそう言うと、携帯の中から画像を選び私に向けた。 長いストレートの黒髪。各パーツは小さいのだが、配置が抜群に良い。 絶対に友達になりたくない。なぜなら性格も良さそうやから。 「名前は?」 「いずみ。ひらがなで。付き合って5年目。告白は俺からした」 「そんなとこまで聞いてへんけど」 「聞かれそうやから先に答えといた」 ふと横山 昴が彼女の前ではどんな感じなのかを知りたくなる。 けれどそんな好奇心は、温かいミントティーで濁す。 恋愛にだらしない私でも、人の物を取らないことだけは、ポリシーとしてあったから。 いや、違う。それはプライド。 誰かが使用中の何かを、使いたくない。
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