14人が本棚に入れています
本棚に追加
数時間後の夜は、
目の前でパスタをきれいに食べる昴に見入る。
「即決しすぎやとは思うけど、あの部屋良かったな。ベランダ南向きやし」
「遊びに来んといてな。あ、でも引っ越しだけ手伝って」
私のオーダーは手付かずのまま干からびていく。
魚介のなんちゃらパスタ。
「勝手やなぁ。てか、それ食べへんの?」
「ほんまはこれ食べたくなかったんかもしれん」
フォークの先端でクルクルだけはしてみる。
「……ふうん。ほなこれ一緒に食べる?
そしたらちょっとは食えるやろ」
「結構です。
私、誰かと鍋つつくんも苦手」
「鍋パする友達もおらへんくせに」
腹が立つ。だがそれで腹に隙間は出来るものだ。
「……ちょっとだけ食べれるかも」
「おお、じゃあ食え食え」
無邪気に笑う横山 昴。
その頬に、片笑窪もぷくりと無邪気に浮かんだ。
「……彼女ってどんな子?」
「……別に。普通。大学から大学院まで一緒の同級生」
昴はそう言うと、携帯の中から画像を選び私に向けた。
長いストレートの黒髪。各パーツは小さいのだが、配置が抜群に良い。
絶対に友達になりたくない。なぜなら性格も良さそうやから。
「名前は?」
「いずみ。ひらがなで。付き合って5年目。告白は俺からした」
「そんなとこまで聞いてへんけど」
「聞かれそうやから先に答えといた」
ふと横山 昴が彼女の前ではどんな感じなのかを知りたくなる。
けれどそんな好奇心は、温かいミントティーで濁す。
恋愛にだらしない私でも、人の物を取らないことだけは、ポリシーとしてあったから。
いや、違う。それはプライド。
誰かが使用中の何かを、使いたくない。
最初のコメントを投稿しよう!