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「俺思うけど、これ普通一番先ちゃう?」
当日引っ越し業者と化した昴の指は、新居に着くとベランダの窓枠をなぞる。
「カーテン忘れてたなぁ。でも3階やから大丈夫」
「でも見てみ、あかんやろ」
昴がおいでと私を呼び、道路を挟んで真正面にある、マンションの1室を指差した。
糸電話出来るくらいのベランダを横切るのは、多分どこかの大学生。
耳に充てた携帯電話の相手に伝わるはずのない、大きな手振りが印象的。
トイプードルのようなパーマが会話ごとに頷いて、ノンフレームの丸眼鏡がちらちらと反射する。
「……あかんかな」
「男やし、あかん。カーテン買いに行こ」
「えっ、でも時間遅いし」
この後は、いずみんと会うと聞いていた。
「ここらへん、そう云う店ないよなぁ」
私の言葉を無視して、
昴の指は、携帯の画面で地図を広げた。
「お、隣町にショッピンクモール発見。
ギリで間に合うっぽい」
「けど今日はええかも。いずみんとこに行ってくださいな」
「……けどカーテン気になる」
自分のことのように昴は言い、メールでいずみちゃんに連絡をすると、私を促した。
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