PEACH

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「昴は家出したことある?」 「無い。でもしたかった」 フードコートを出て、閑散としただだっ広い駐車場を歩く。 いつの間にか降った雨がアスファルトを濡らし、水溜まりには夜桜が映る。 「親父、開業医で、気難しい人やねん。 そもそも俺の存在が鬱陶しいみたいやし、臨床心理士目指してるのも気に入らん。 やから家は息が詰まるけど、お袋はええ人や。ねーちゃんが家出てるから、俺まで出ていくのはちょっと可哀想かなって」 エンジンがかかると、軽トラックは 老人のようにぎこちなく動いた。 「ふうん。私は家出てスッキリしたけど」 おっちゃんの様子をちょくちょく見てもらうことと引き換えに、隣の川崎さんに、驚く程のお金を渡した。 でも人ってお金が好きや。 いらんとは1度も言わんかった。 そして川崎さんの電話番号は知らないから、おっちゃんを捨てたとも言うんかな。 「スッキリしてるようには見えへんけどな」 「スッキリしたよ。止めて、私そんなええ奴ちゃうから」 フロントガラスに張り付いた桜を、 ワイパーが冷酷に散らしていく。 「ええ子やん。…知らんけど」 無責任な昴の言葉は、軽口を生む。 「そんなん言うんやったら、いずみんと別れて私と付き合う?」 昴がスゥと息を吸い、 「それはでけへん」と言い放つ。 「送ったらそのまま帰るな」 「いずみんとこ?」 「うん」 友達という名には別名がある。 孤独と云う名の別名が。 昴を気に入った訳やないけど、 幸せな人は嫌い。
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