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「颯太くんってやっぱり仮病ですよね?」
親子が診察室から退出すると、
西田さんが俺に言った。
「いや、ほんまにお腹の風邪やで」
けれど納得いかないのか、西田さんの頬は膨れる。
「違いますよぅ。
先生わかってわかってはるんでしょ?仮病やって」
「でもええやんか。君には関係ないやろ?
他人の、特に患者さんの事は無意味に詮索するな」
遮りながらカルテに目線を落とすと、
そんなたわいもない事で西田さんの顔が曇った。
「ごめん。
変な意味やなくてあれはちゃんとした病気やと俺は思うからやで。君に怒ってる訳やないから」
「私こそすみませんでした。
あ、そのぉ、彼氏にもあんまり怒られた事ないんでビックリして」
「そうなんや。君の彼氏は優しいんやな」
「はい。なので逆に、先生みたいなタイプの男性に惹かれたりするんです。
あっ、これってプチ告白?」
「何で疑問系やねん」
今時の子にとってこんな告白は、
コーヒーを口にするのと、
さして変わりはない。
頬を膨らませていたと思えば、不謹慎な程軽い笑い声をたてる。
「あははっ……あ、はい。すいません。
でも人はどこで恋愛に発展するかわからへんでしょう?この世は常にアンビリーバボーですから」
無邪気な西田さんを見ていると、
俺は自分の年齢を感じた。
今年俺は35になる。
俺のような人間は、この10年で、LGBT《トランスジェンダー》という一括りになり、堂々とカミングアウトし、活躍する芸能人が普通な時代。
それでもまだ一般社会で暮らすには、
息を潜めなければならないのが現状だ。
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