lN AUGUST AFTET TEN YEAR

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「颯太くんってやっぱり仮病ですよね?」 親子が診察室から退出すると、 西田さんが俺に言った。 「いや、ほんまにお腹の風邪やで」 けれど納得いかないのか、西田さんの頬は膨れる。 「違いますよぅ。 先生わかってわかってはるんでしょ?仮病やって」 「でもええやんか。君には関係ないやろ? 他人の、特に患者さんの事は無意味に詮索するな」 遮りながらカルテに目線を落とすと、 そんなたわいもない事で西田さんの顔が曇った。 「ごめん。 変な意味やなくてあれはちゃんとした病気やと俺は思うからやで。君に怒ってる訳やないから」 「私こそすみませんでした。 あ、そのぉ、彼氏にもあんまり怒られた事ないんでビックリして」 「そうなんや。君の彼氏は優しいんやな」 「はい。なので逆に、先生みたいなタイプの男性に惹かれたりするんです。 あっ、これってプチ告白?」 「何で疑問系やねん」 今時の子にとってこんな告白は、 コーヒーを口にするのと、 さして変わりはない。 頬を膨らませていたと思えば、不謹慎な程軽い笑い声をたてる。 「あははっ……あ、はい。すいません。 でも人はどこで恋愛に発展するかわからへんでしょう?この世は常にアンビリーバボーですから」 無邪気な西田さんを見ていると、 俺は自分の年齢を感じた。 今年俺は35になる。 俺のような人間は、この10年で、LGBT《トランスジェンダー》という一括りになり、堂々とカミングアウトし、活躍する芸能人が普通な時代。 それでもまだ一般社会で暮らすには、 息を潜めなければならないのが現状だ。
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