lN AUGUST AFTET TEN YEAR

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緑の草と桜の花びら。 春の匂いがホームを埋めていく。 夜の改札を出ると、ひっそりとした薄暗い商店街だけが俺を出迎えた。 医師という仕事に就いてから、呑みに誘われることも多くなり、通勤は電車になることが増えた。 勤務終了時刻は遅く、 商店街が活気づいている時刻に出くわすことも無い。 角を曲がり、いつも少しだけ力の入ってしまう店舗の近くに来ると、閉まっているはずのシャッターは半分程開き、柔らかな光が漏れていた。 足早に過ぎようとした時、その隙間から、店の主がひょっこり顔を出す。 俺を見ると、少し躊躇い、それからすぐ旧友に出会ったような顔をした。 「やっぱり…そうや!あの時の…」 写真館の主は、ショーケースの中にある その写真と俺を交互に見比べた。 「ど…うも」 「ずっと見かけへんから引っ越したんかと思ってた。 あれから結婚したんやよな? あぁ、ええっと……もし別れてたりしたらごめんやでぇ」 旧友との再会みたいに目を細め、申し訳なさそうに頭をかく。 「……あ…いえ実はまだ……その……彼女とは結婚してなくて。 別れた訳やないんですけど……」 俺がそう言い放つと、主はただでさえドングリみたいな目を一層際立たせた。
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