lN AUGUST AFTET TEN YEAR

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「そぅなんか? あ、いや、あれからかれこれ10年近くやし、そのてっきり……。 ……まぁ今時の人は婚姻にはとらわれんみたいやからね。人それぞれや。 まぁまたそのうち二人で顔見せてよ。 彼女、えっと……」 「中園 葵です」 苦笑しながらそう答えた。 主はきっと俺の名前も忘れてるやろう。 「そ、あおちゃん! ほんまにきれいな子やったなぁ。 事情はあるやろが、早めに結婚したってや」 主と別れ、また家路を辿る。 マンションに着き、キーを回し、 その真っ暗な部屋で、日中我慢していた溜め息が部屋中に溢れ出た。 照明をつけ、カレンダーにバツをつける。 今日はあと5時間程で終わり。 飯もそこそこに、学会用の資料に目を通した。 横たわるソファーの上に、春の緩い風が吹いている。 潤太郎がくれたピンクのカーテンは、あまりにも長い月日に色落ちし、太陽の色を沢山染み付けて、まだらに揺れていた。 彼女がこの家を出て行った事実に、皆触れないようにしている。 家出した恋人を10年も待ち続けるなんてクレイジーだと。 いずみちゃんとより戻したら? いつか姉にそう言われた事があった。 いずみは今だによく、俺の仕事場のナース達に差し入れを持って来てくれるし、独身だからだ。 西田さんを含め、周囲はいずみが俺の彼女だと誤解している。 あえて否定はしない。 説明しだすと必ずあおの存在を言わなければいけないし、彼女の帰りを待ちわびる俺としては、それは過酷な作業だからだ。 でも時折ふと、自分が輪を回り続ける鼠になったような気がする。 楽しいから回り続ける。楽しいから…。 資料など一切頭に入らず、そればかりを考えていると、姉からの電話が着信した。
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