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部屋に戻り明かりを付けると、
おのずと窓枠の彼が視界に入った。
私と同じに引っ越したばかりなのか、
段ボールを跨いでいる姿が滑稽に思え、
漠然と見ているとしまいには目が合い、
急いでソファーの影に隠れた。
頃合いを見計らい顔を出すと、
彼が神隠しにあった代わりに、
玄関のインターホンが鳴る。
チェーンをかけ、そろりと覗くと、
プードルの毛先だけが魚眼レンズに踊った。
「……はい?」
「あっ、すいません。
向かいのマンションの者ですが」
「……何か?」
あれは覗いてたんやありません。
カーテンが無いんですよ。
「えっとぉ…そのこれ…なんですが。女の子やし、困ってないかなと思って。怪しい者ではないんで、是非開けていただけたらと」
ドアから精一杯離れたトイプー君は、瑞々しい声と共に、巨大なピーチ色の布を旗のように掲げた。
チェーンをしたままドアを開けると、
その隙間はまだ布で埋め尽くされている。
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