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ココンコンコンと、ドアノックが波打つ。
それは通常、静粛であるべきこの場には
そぐわないリズムだ。
「中園さん、入るで」
そしてノックは相手の返答を待つものだ。
だが、嬉々として覗いた女医の顔は、
そんな普通を一蹴した。
「横山先生、
ノックの意味知ってます?同時は無意味」
「いちいちうるさい子やなぁ、怖い顔して睨まんとって。
それにここは病院やで。プライバシーなんかないわ」
数歩ピンヒールを響かせた私の担当女医は、
白衣にくっきりと黒い聴診器の先を踊らせている。
私も負けてはいないが、
彼女の美しさは目覚まし代わりになるほどだ。
長身のモデル体型と、蛇になり代わりそうな
黒く長い艶やかな髪。
人の心を読み取りそうなほど、強い光を放つ瞳は、
患者には不評の独特キャラと相まって、
恋人はおろか、婚期を遅らせているのは一目瞭然。
世の中は普通が好きだし、異端である場合、敵は多い。
そして、古巣の看護婦の話では、
彼女の見立ては、別名【悪魔のお告げ】と、
患者達には呼ばれているらしい。
例外ではなく私も、2ヶ月程前、彼女から【悪魔のお告げ】を貰った。
ー 私の見立てでは、このままやと長くて2年。
とりあえず、検査入院してみんとわからんけど、
なんせあんまり良くはないわ ー
悪魔がお告げがあった日は、雲一つ無い晴天だった。
「はい、胸出して。血圧は朝測ったやろ?
ふふん、相変わらずペチャパイやね、あおいちゃん」
「ほっといて下さい…。
それに、あおい、やなくてあおですから。
何べん間違えるんですか」
「あぁもう煩い。
はい、吸って吐いてって、あんた吐いてばっかりやん」
「仕方ないでしょ。
溜め息ばっかりでるんですもん」
「まぁ、溜め息は心臓にええから、大いにつきたまえ。あ、そうや、この検査入院の結果出たら、どうするつもり?」
「ああ、それ」
横山女医から知ったことは、
先生というのは基本無理強いをしないと云うこと。
私の体は、1つの商品であり、
欠陥を治すのも治さないのも、私次第。
先生は営業で、私は顧客。
営業スタイルは、医師により様々。
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