14人が本棚に入れています
本棚に追加
昴と別れ乗り込んだ電車の窓の外には、
つい先程まで一緒にいたビルの群れが聳え立つ。
ふいに声をかけられ振り向くと、
私達の話題の中心にいた迫田 潤が笑みを浮かべた。
「びっくりした。電車、乗るんですね」
「ふふ。私、電車乗らなさそう?」
「いや、そういう意味やなくて、電車で知り合いに会うのって、俺、なかなか無いもんで。あ、そうや、カーテン付けてくれてるんですね。どうですか、具合は?」
迫田 潤は耳につけていたヘッドフォンを外すと、リュックにそそくさとしまいこんだ。
「ありがとう。役立ってます」
「それは良かった。実はあの翌日、文句言うたせいかさっそく親が違う色のカーテン送ってきて。今度は抹茶色なんですよ」
「知ってる」
軽く笑うと、迫田 潤は照れ臭そうに髪の毛を軽く掻いた。
「あの、突然なんですけど、ブレスレットとかします?」
「えっ…」
「……そんな驚かなくても。
俺、芸大の学生で、こんなん作ってて」
迫田 潤はリュックの中から、
奇妙な形が幾つも連結した、ブレスレットを取り出した。
「彫金って言うんです。指輪とかも作るし」
「へえ、かわいい」
「興味あったら作って…えっと名前は」
「中園です。中園 葵。葵って漢字やけど、あおって読むの。迫田さんより3つ上かな」
「へぇ、珍しい。良い名前ですね。
3つお姉さんかぁ。じゃあ中園さん。電車で会った記念にどうぞ」
「え、あ、ありがとう。ただで?」
「はい、勿論!」
迫田 潤が弾けるように笑う。
それなのになぜか今すぐ昴に、
このことを報告したくなった。
最初のコメントを投稿しよう!