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「手術がでけへん状態ってことは、薬、もしくは放射線で治療ってことでしたよね?」
「あと…奇跡!」
女医の豪快な笑い声が響く。
「奇跡ねぇ。
起きたとしても、生きる意味がようわからんので、遠慮しとこかな」
ハミングするように答え、シーツ下の足を泳がす。
そう言えば日焼けを気にして、
ろくに海に行かなかったなぁなんてことくらいが、
些細な後悔。
「あんたが生きる意味?
また小難しいこと言い出したなぁ〜。
それは単純に、病院の儲けになるってことやん。
あ、そうやもう一個言うの忘れとった。
中園さんに友達紹介したろう思ってたんや。
恋人おったことはあっても、友達おらんタイプやろ?」
「よくお分かりで。治療の話は?」
粗雑な方向転換とて、呆気にとられはしない。
初対面から1ヶ月弱で、この女医への耐性はやや出来ていた。
「後でええわ。めっちゃ後はあかんで。
そこまでいい加減やと、私が科長に怒られるんやし。
それより、どう?」
「同年代の女子とか、まるで話合わんので無理です」
「アホやなぁ、私がそんな初歩的なミスするわけないやん。中園さんと同い歳やけど、男子、彼女持ち。
話し相手にはちょうど良くない?」
「まさか先生の昔の男、とかやないですよね?」
疑いの眼差しは、白衣の壁に刺さりもしない。
病人だというのに、頭をポカリと叩かれた。
「しょーもないこと言いな。
弟や弟。
今、大学3年生。
気さくな子やし、ええ暇潰し相手にはなるで。
明日、退院する時、来るよう言うとくわ。
じゃあ私、外来あるから」
「えっ…ちょっと!」
悪魔が白衣をバサリと音たて翻す。
そんな悪魔の着る服は、
今日のどの雲よりも白かった。
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