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私が10歳になったばかりの夏、
小さな会社を経営していた両親は、
取引先から帰る途中、大型トラックに押し潰されたまま、帰らぬ人となった。
『…それにしてもパパとママ遅いなぁ』
私はその日、母の姉である、おばちゃん家でお留守番をしていた。
おばちゃんは私の三つ編みを結び直しながら、そう呟き、鼈甲色の夕暮れと、
降り注ぐような蝉時雨が、なぜか不安を煽った。
事故後は慌ただしく過ぎ、
その頃、両親は死んだと云うより、
突然消えたと云う感覚に近く、
母親の姉である叔母夫婦が、私を気前よく引き取ってくれた。
ー うちは子供もおらんから、あーちゃん、何も遠慮せんでええんよ。賑やかになるわぁ ー
あのうわずった声が、気前なんかではなく、
親戚から白羽の矢を立てられた結果だということは、今なら理解出来る。
祖父母と云う人達も早く他界していて、
父親には兄弟もいない。
だから私にはこのおばちゃんが唯一の親戚であり、両親の次におる人というイメージがあった。
『足らへんもんあったら言うて。
ほら見て、このカーテンかわいらしいやろ?』
おばちゃんが私の部屋を用意して、その夫であるおっちゃんは物静かな人だった。
私に残された意外に多額の遺産がそうさせていたのかどうかはわからないし、施設でなければ良いやと思っていた節もある。
そして転校した小学校と、家の窓から見る月の違和感。
それらが全て整って初めて、私は両親を完全に失ったのだと悟った。
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