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おばちゃんが絵画教室の先生とダブル不倫していると云う噂を知らない訳ではなかった。
『ど…どないしよあーちゃん。
春子さん、何回かけても携帯出えへんねん。まさか事故にでも巻き込まれてるんちゃうか!?
こんなんで僕も会社行くに行かれへん』
『…行ったらええやん。私も学校行くし。
その後デートもあるし、色々忙しいわ。
それにおっちゃん、もう一回ちゃんと文章読んだら?事故でも何でもない。か、け、お、ち、やん』
『…駆け落ちって…あのドラマとかでようある…』
『あんな、おっちゃん。
こんなん言うたら悪いけど、おっちゃん捨てられたんやで。ついでに私もやけど!』
人生はこんなもんやと思う。
素晴らしいことなんて何一つなくても、
生きていかなあかんねん。
私は遮断するように思いきりドアを閉め、
おっちゃんの、歌舞伎役者みたいな泣き声を聞きながら、マスカラを塗り直した。
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