BANANA

8/14
前へ
/225ページ
次へ
坂の上からボールを転がすように、 おっちゃんはそこから心の病気になった。 まともに話すことすらままならない。 私が外泊しようが、音楽を爆音でかけようが、興味すら示さない。 会社を辞め、廃人みたいに台所に立ち、 病院の薬か、パンを、亡霊のごとくモソモソ(むさぼ)る。 一方の私は女子大を出たものの、フリーターの道を選んだ。夢があったとかやなく、その時気に入った就活スーツが無かったから。 その頃テレビで流れていた子宮頸ガン検診のCM。 ほんの気の迷いで受けたそれは、 紹介状から再検査となり、 あの病院に辿り着いた。 【Dr. YOKOYAMA】 そんなネームタグが白衣で偉そうに揺れ、 悪魔は私に告知した。 『嘘でしょ?』 『残念ながら、ドッキリでもないし、嘘でもない。もっと早よ病院来たら良かったのに』 剥がれ落ちそうな程軽い口調とは真逆に、カルテに向けられた真っ直ぐの瞳。 その目がやたらと印象的で、私は反論する術を失った。 『大事な話があんねん…』 その日、何日かぶりでまともに話しかけると、おっちゃんの表情がほんの一瞬だけ変わった。 『…だいじな話…?』 『…うん。実は、 私、あと2年ぐらいで死ぬみたいやねん。 やからおっちゃんその後どないするかなぁと思って』
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加