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坂の上からボールを転がすように、
おっちゃんはそこから心の病気になった。
まともに話すことすらままならない。
私が外泊しようが、音楽を爆音でかけようが、興味すら示さない。
会社を辞め、廃人みたいに台所に立ち、
病院の薬か、パンを、亡霊のごとくモソモソ貪る。
一方の私は女子大を出たものの、フリーターの道を選んだ。夢があったとかやなく、その時気に入った就活スーツが無かったから。
その頃テレビで流れていた子宮頸ガン検診のCM。
ほんの気の迷いで受けたそれは、
紹介状から再検査となり、
あの病院に辿り着いた。
【Dr. YOKOYAMA】
そんなネームタグが白衣で偉そうに揺れ、
悪魔は私に告知した。
『嘘でしょ?』
『残念ながら、ドッキリでもないし、嘘でもない。もっと早よ病院来たら良かったのに』
剥がれ落ちそうな程軽い口調とは真逆に、カルテに向けられた真っ直ぐの瞳。
その目がやたらと印象的で、私は反論する術を失った。
『大事な話があんねん…』
その日、何日かぶりでまともに話しかけると、おっちゃんの表情がほんの一瞬だけ変わった。
『…だいじな話…?』
『…うん。実は、
私、あと2年ぐらいで死ぬみたいやねん。
やからおっちゃんその後どないするかなぁと思って』
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