一章【文武両道は天才と読む】

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「俺はカルシンゆうねん」 そう言って、よく見るとうら若い顔で男は笑った。 カルシンは真焔帝国から来た旅人で、いろんなところを放浪しているらしい。今回の旅では、エンセライルの名物(?)の絶壁から、中に侵入しようと試みている最中で、たまたま川をたどっているとスャムが眠っているところが目に入り、起きるまで待っていたそうだ。 説明が終わり、一息つくかと思いきや、カルシンはここまでの旅路で熊に遭遇しただの、滝に落ちかけただの、アリの群れに足を突っ込んだだのと、どうでもいいことをつらつらと喋った。 耳に心地よい軽快なリズムで話を進め、よく笑う。少し高めの声も、笑い声と相まってとても聴きやすい。 何より、カルシンの目は美しかった。朝日に輝く水辺の色を写し取ったような、そんな印象を受ける瞳。表情によって色を変える綺麗な目に、スャムは自分でも知らないうちに、魅了されていた。 そして、スャムはうっかり一時間もの間、カルシンの話に耳を傾けてしまったのだった。 そして、カルシンも話のネタが尽きたようで、少し呆れた顔でスャムを見る。 「お前…喋らへんなぁ。さっきから相槌しかしてくれへんやんけ」 そう言われても困ると、スャムは唇をなめる。 「俺が口を挟む暇もなく喋るのが悪い。俺は忙しいんだ。そろそろ行く」 カルシンは少し残念そうだったが、忙しいという男を引き止めるほど無粋でもないらしく、立ち上がった。 「おう。すまんかったな、一時間も」 ちなみに、とスャムを引き止めるカルシン。目にはしっかりと好奇心と書いてある。 「名前くらい教えてーぇや」 初対面の相手によくもここまで馴れ馴れしくできるものだ、と若干の嫉みも感じながら、スャムは躊躇いもなく偽名で答えた。 「アイサ」 「おお! ええ名前やな、知らんけど! 」 にかっと笑った。 その笑みに、少し罪悪感を感じた、その時、スャムは少し遠くからこちらに向かってくる足音に気がついた。明らかに鎧を纏っている。途端にスャムの脳はフル回転した。 そして、すぐさま次の行動へ出る。 「カルシン」 すでに歩き出していたカルシンを引き止める。名前で呼んでくれたことが嬉しいようで、空色の目を輝かせながらこちらを振り向いた。 「おお?どうしたん」
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