第4章

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第4章

大学の裏手には桜並木の続くサイクリングロードがある。入学前の長い休みを利用してバイトにせいをだし、ついにクロスバイクを買った。 地元のこじんまりした小さな大学ではあるが、家からは自転車で15分あればつけるし、バイト先のカラオケも近いし、なんの不自由もなかった。 あとは一生懸命勉強して、給付型の奨学金を4年間貰えるようにする。正直大変だし後はないが、父親をあてにしなくていいのは精神的には楽だった。 まあもしムリなら、貸与型の奨学金に切りかえて、返済していけばいいし、あまり暗く考えるのは辞めよう。 中二で、人生のドン底を経験してからは、びっくりするくらい明るくなったと思う。 クラスで友だちと言える人間が増えだしたのもその頃からだ。大きな体でいつもニコニコしているものだから、プーさんというあだ名もついた。 でもそのプーさんが蜂蜜ではなく、身内を殺そうとした、重たすぎる過去を抱えていることは誰も知らない。 それをムリに忘れようとはしなかった。そうしなくても生きていけると言ってくれた人がいたから。 入学式に行くため、桜並木の中を歩き出したとき、ふと思った。 ということはつぐみも、なにかで傷ついたり、辛いことがあったんじゃないか、と。 彼女自身も忘れられない傷を抱えて、それでも生きているのではないか、と初めて思った。 そしてそう思うとなおさら彼女が愛しくなった。
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