9人が本棚に入れています
本棚に追加
名護野方面からの下り列車が、高架上のホームに到着し、どっと人が吐き出された。いちいち探す必要なんてなかった。つぐみの姿はすぐに見つけられた。
毛先がゆるくカールしている、ふわっとしたミディアムショートヘアーに、大きめの白いもこもこセーター、黒いロングスカート、そして彼女にぴったりの薄紅色の春色コート。
実の視線にも気づかず、つぐみは階段を下りて、南出口からロータリーへ向けて歩いてくるところだった。
「つぐみねーちゃん!」
バカでかい声に、つぐみの肩がびくっとなる。怯えたように、左右を見回していたが、道路を挟んで正面にいる実に気づくと、こわばっていたのがたちまち笑顔になった。車が来ないのを見計らってすぐに走ってきてくれた。
「実くん! おー、どうしたの?」
「ちょっと、……迎えに」
「え? 私を?」
「うん」
うなずきながら、後ろに隠した花束を握る手に力をこめた。
「つぐみねーちゃんにちょっと、言いたいことがあって」
最初のコメントを投稿しよう!